■NO 210号 モピ通信

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  意味不明の意義

『Voice from Mongolia, 2019 vol.59』

  モピ新年会ご案内

  モンゴル学習支援事業&国分小学校

  事務局からおしらせ 

意味不明の意義

小長谷 有紀

(日本学術振興会監事・文化人類学)

超高齢社会を幸せな長寿社会にするために留意すべきキーワードがある。「ロコモ」「サ ルベコニア」「フレイル」。指を立ててくるくる回しながら三回唱えてみると、なんだか魔 法の呪文のようだ。
ご存じですか。

ロコモコは、ハワイ風どんぶり料理だが、ロコモはその略でではない。ロコモティブシン ドロームの略である。公益財団法人、長寿科学振興財団が作成するホームページ(HP)健康長 寿ネットによれば、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたしてきた状態」を表す。 運動器とは、身体を動かすために関わる組織や器官のことで、骨、筋肉、関節、靭帯、腱、 神経などから構成されるという。 2007年の日本整形外科学会で提唱された概念で、「運動器症候群」という定訳も用意さ れている。

このような症状をもたらす原因の一つサルコペニアである。アメリカの栄養学者がギリシ ャ語で筋肉を表すサルコと、喪失を表すペニアを合わせて作った言葉で、高齢者のサルコペ ニアは「加齢性筋肉減弱症」と訳される。
この HP には、「転倒とサルコペニア」というページがあり、転倒は事故というよりむしろ身 体機能の低下によることが統計を用いて説明されている。それによれば、65歳になると3 人に1人が年1回い以上転倒する。特に75歳から急激に転倒が増える。グラフを見ると、 80代前半の女性では10万人中およそ2500人が年2回以上転倒し、1600人くらい が大腿骨頸部つまり足の付け根を骨折している。

私自身はまだ60代前半だが、明日は我が身である。すでに身の回りでサルコペニアは現 実だ。90代の実父は転倒して歩けなくなってから一気に認知症がすすみ、80代の義母は つい最近、転倒して大腿骨を折って手術し、現在リハビリ中である。要するに、ロコモのう ちの一つがサルコペニアである。漢字でつづく日本語訳を使うよりも、カタカナのほうが言 いやすいかもしれない。それでも定訳はある。これに対して、三つめのフレイルには定訳が 用意されていないように見える。どうやらそこにこそ意義があるらしい。

三たびこの HP を参照すると、フレイルそのものが老年医学で使用されている英語 Failty を語源にして作った日本語であると知れる。英語のフレイルティは虚弱、老衰などを意味す る。この訳語について議論した日本老年医学会は、正しく介入すれば戻るという意味があることを強調するために、2014年5月、「フレイル」と訳そうと提唱したそうである。訳 語がフレイルなのだから、それは日本語としての提言なのである。

フレイルと呼ぼう!というメッセージは、虚弱と呼んでは元も子もないという意味だと私は 理解した。ジブリ映画『ハウルの動く城』のヒロインであるソフィーは、気持ち年齢が姿に 現れるという呪いがかかっているため、ときめきシーンでは娘に戻る。確かに気持の若々し さは必要だが、それよりもまず身体そのものを大事に至らない程度に維持するだけでも大変 なお年頃なのである。だから、フレイルで行こう!

現在のことば
(京都新聞10月18日夕刊) 掲載記事を先生のお許しを得て、掲載させていただきました。


『Voice from Mongolia, 2019 vol.59』

(会員 小林志歩=フリーランスライター)

「年中、牛乳を搾るよ。もうけが出るかって?冬にはもうけなんて出ないよ。冬は牛乳の量 は少ないし、知り合いからの注文ですぐ売り切れて、乳業会社に出す分もない」

―――ウランバートル郊外在住・牧民

10月末、内蒙古自治区の北、ホロンボイル草原の街ハイラルから、早くも雪のたよりが 届いた。9月に訪れた中・露国境の草原も、見渡す限りの銀世界になっているのだろう。そ こで、家畜より多く見受けられたもの、それは牧草のロールだった。現地ガイドの説明では、 今夏は雨が多く、ロールの間隔が狭いということだった。

梅棹忠夫さんは20代はじめだった終戦直前の1944年から45年にかけて、今西錦司 博士の下で、内モンゴルのアーリエンホト(二連浩特)のさらに南、チャハル、東西スニト 地方で牧民の実態調査を行った。聞き取りの結果、当時一般によく言われた遊牧民は草を刈 らないという認識に反して「内モンゴルの牧民は草を刈る」と論じた(『梅棹忠夫著作集 第 2巻 モンゴル研究』1990年、中央公論社 所収「草刈るモンゴル」1955年)。利用 される草の種類や鎌などの道具や貯蔵場所、仔牛や仔羊に選択的に給餌すること、そして調 査地域のうちあるラインより北は全く草を刈らない牧民が多いとの記述がある(ちなみに、 この本の末尾には編者の小長谷有紀先生と加藤九祚先生のコメントが掲載されている。まだ の方はぜひご一読いただきたい)。

私が訪れた地域ははるかに緯度が高いが、同自治区内での酪農生産拡大や技術革新、道路 など交通網の発達を受けて、まさに広大な「草刈り場」の様相を呈していた。

写真説明:モンゴル国国境近くの内蒙古・ノ モンハン周辺で見かけた牧草ロール

現在のモンゴル国内ではどうか、と思 い、家畜飼料を研究するモンゴル国から の留学生に聞いてみたら、彼の父親が牧 草栽培事業に関わっていたという。20 15年に東部、ヘンティー県デルゲルハ ーン村において中国・内蒙古自治区国境 の草地保護再生の援助プロジェクトと して複数県のオトル(長距離放牧)地帯 の25ヘクタールに、牧草のツァルガス (アルファルファ)を試験的に栽培して いたそうだ。

ツァルガスを長年研究するS.バトスフ博士のインタビュー記事によると、社会主義の終焉まぢかの1988年、飼料栽培に特化したハルヒラー国営農場でツァルガスを大規模に栽培、種子も生産されていたという。国営農場の解体と同時に、大型農業機械やかんがいを必要とする牧草の大規模生産は行われなくなった。

博士は「多年草である牧草は一度播種す れば10年以上利用でき、5ヘクタール栽培すれば、200-250ヘクタールの草原に機械を入れて刈らなくて済む」とし、牧民や農場主に対し、牧草の委託栽培を呼び掛けている。

牛乳を売る近郊の牧民にとって、長い冬と家畜が出産する春のための飼料確保は切実な問 題だ。首都近郊で乳牛を飼う肝っ玉お母さんのツェンドさんは、足を怪我したことから牛を 手放し、日本で働く家族を訪問中だった。昨年まで12頭の牛を一冬養うために買っていた 乾草は、800包(16トン)。品質によって値段も色々だが、まとめ買いの価格で1包(約 20キロ)6 千トゥグルグ、草原の国の「草」は結構高くつく。乳業メーカーの中には、牧草 を生産者に供給し、乳代で精算するところもあるとも聞いた。 冬の間、日に乳牛たちに乾草60キロと穀類、フスマ少々を与えるが、搾乳量は1頭から3 リットルほどに過ぎない。大量の濃厚飼料を食べさせられて日に30リットルもの牛乳を出 すように「改良」された北海道のホルスタインとはほとんど違う生き物と言っていいかも知 れない。北海道で農場を目にする機会があったが、「湿った牛舎の床の上で、年中過ごさせる のは全く気にいらないね」。私が先日訪れた放牧酪農家で、牛たちが草の上で佇む写真を見せ ると、「そうだよ、こうでないとね」と満足そうにうなずいた。

「もうすぐ帰国したら、また良い乳を出す牛、そうだね、ヘンティー原産の赤牛を2頭く らい買って始めるよ」。次会うときはゲルを訪ねて、自慢の牛乳を飲ませてもらおう、と思う。

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今月の気になる記事

社会主義のモンゴル人民共和国においては、大学生は皆8月中旬から10月中旬まで、じ ゃがいもや小麦の収穫や、牧草のための草刈りの作業に動員されるのが普通だった。アルバ イト料も支払われ、学校の単位にもなったという(野沢延行『モンゴルの馬と遊牧民 大草 原の生活誌』1991年、原書房)。現在、牧民は自分でもハドラン(草刈り)を行うが、雨 が多く草の状態が良かった地域で刈られた干し草をトラック一杯いくら、で買う人が多いよ うだ。家畜数の急増、交通の便の良い場所での放牧の集中などによる草原の劣化を受け、「草 播くモンゴル」への取り組みも始まっている。

社会主義のモンゴル人民共和国においては、大学生は皆8月中旬から10月中旬まで、じ ゃがいもや小麦の収穫や、牧草のための草刈りの作業に動員されるのが普通だった。アルバ イト料も支払われ、学校の単位にもなったという(野沢延行『モンゴルの馬と遊牧民 大草 原の生活誌』1991年、原書房)。現在、牧民は自分でもハドラン(草刈り)を行うが、雨 が多く草の状態が良かった地域で刈られた干し草をトラック一杯いくら、で買う人が多いよ うだ。家畜数の急増、交通の便の良い場所での放牧の集中などによる草原の劣化を受け、「草 播くモンゴル」への取り組みも始まっている。

飼料牧草を栽培してサイレージにする技術を普及 
(筆者:農牧業軽工業省/バヤルオトゴン)

スイス開発庁の「緑は金」家畜保健プロジェクトの資金提供を受け、国家農業普及センタ ーは、2019年にトゥブ県スンベルソム、ボルノールソムにおいて、牧草のアルファルフ ァ栽培事業を実施した。畜産、畑作の両方が盛んな地域で集約的な農業を営む牧民に対し、 牧草を栽培し、飼料を自家生産することで飼料購入のコストを減らすことが可能となった。 牧民が参加して播種を行い、栽培を実際に経験することから、経営課題を解決するのに有効な投資となっている。 混合の牧草は自然の草を刈った牧草に比べて、家畜が消化しやすく、栄養価が高いため、
乳肉の生産に良い影響をもたらす。アルファルファは多年草で、一度播種をすると毎年自生 し、回復して生育、タンパク質が豊富で「牧草の王様」と呼ばれる飼料作物で、土壌の再生 にもつながる。 2019年にトゥブ県のスンベル、ボルノールの両ソムで各30ヘクタールの飼料作物と、 5ヘクタールのアルファルファを栽培した。1ヘクタールの圃場の50%を小麦、38%を オーツ麦、12%に大麦を播種した。このように混ぜて栽培した飼料作物、このようにして 栽培した飼料作物は一般に流通している飼料より品質が高く、乳・肉の生産増につながるこ とが期待できる。
トゥブ県のスンベル、ボルノールソムでは飼料作物栽培にあたりタイシル・ウルグー有限 会社と協力し、両ソムの放牧地活用グループの牧民らの60ヘクタールに混合飼料作物、1 0ヘクタールに多年草を品質の高い種子を供給し、進んだ技術を用いて面積あたりの適量を 播き付けた。ソムや地方行政も協力して、放牧地活用グループの牧民を参加させ、農業機械 も提供して作業を行った。
今年は飼料栽培を適切な時期に行い、降雨も得られたことから、当初の計画以上の収量が あり、参加した放牧地活用グループの牧民の働きは十分に報われることとなった。 スンベルソムの放牧地活用グループの牧民による収穫作業は既に始まっている。今年は収穫 量の30%をサイレージにする作業も計画された。サイレージは来年の年明けに販売され、 その収益で種子を購入することを計画している。残りの飼料作物はグループの牧民が消費す ることになっている。
ボルノールソムにおいても、タイシル・ウルグー有限会社による栽培と収穫が続いている。

同社は牛と羊の集約的農場を経営するほか、牧草の生産を行っている。 (2019年9月23日)食糧農牧業軽工業省のウェブサイト http://mofa.gov.mn/exp/article/entry/1878 (原文モンゴル語)

近隣のソムに牧草を販売

(筆者:B.ゲレルトオド)

アルハンガイ発/モンツァメ通信/

同県のツァヒルソムでは、今年合計 90.3 ヘクタールで牧草を栽培した。このうちソム役所 が6ヘクタール、をリーダーにする「ハンオール・ブンバンシレート組合(B.ガンボルド 組合長)が 60 ヘクタール、住民グループ(B.バーサントグトフ代表)が33ヘクタールに 牧草をそれぞれ栽培し、自分たちの飼料をまかなうのみならず、近隣のソムの牧民にも販売 している。 このようにすれば、冬を無事に乗り越える準備を万全にできるほか、収入を増やし、雇用も 創出される。上記の団体やグル―プでは1ヘクタールあたり約5トンの飼料を収穫した。ツ ァヒルソムにおいて、トラック一台分の牧草は20万~25万トゥグルグで取引されている。 (2019年11月11日)モンツァメ通信 ウェブサイトhttps://www.montsame.mn/mn/read/206526  (原文モンゴル語)

(記事セレクト・翻訳=小林 志歩)

※転載はおことわりいたします。引用の際は、必ず原典をご確認ください

2020年・新年懇親会&例会のご案内

(担当:村上 雅彦)

新元号令和になり、初めての新年懇親会・例会を下記にて開催いたしますので 是非ご参加ください。

日 時 : 2020年1月18日(土) 11:30~

場 所 : 北京料理 “除園”大阪市西区江戸堀1-15-30

(TEL06-6448-5263) 地下鉄四つ橋線肥後橋駅 2番出口徒歩1分

費 用 :一人4000円 (但し、男性はアルコール代実費負担)

尚、テーブルの準備のため1月11日までに (mopimail/mopi@leto.eonet.ne.jp 又は、tel:075-201-6430) に連絡をお願いします。

(モンゴル第1学校 中学4年 サロール・サイトウ)

モンゴル学習支援事業 & 国分小学校

こどもたちからの手紙が届きました~


事務局からお知らせ

モピ通信の新たな連載記事について、小林 志歩さまから下記のような提案をいただきま した。みなさま、ご検討いただければ幸です。

例えば
1)「モンゴルと私」「旅のアルバムから~ウランバートル、2015 年」のようなタイトルで、 MoPIのスタッフ・会員の方々から、 写真1~2枚と、その写真にまつわるエピソードや思い出などを短い文章で出して頂くスタッフや会員の方々に一押しのモンゴル本、絵本などをあげてもらい、どこがおもしろい かを短い文章で紹介して頂く

2)おすすめのモンゴル本をご紹介いただく 「モンゴル、この1冊」

金田さんや松本さんなど、長年の関わりで選ばれるのが大変かも知れませんが、皆さんの思 い出の場面やエピソードやおすすめ本を通信で知ることができたら嬉しいと思います。

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事務所
〒617-0826 京都府長岡京市開田 3-4-35
tel&fax 075-201-6430

e-mail: mopi@leto.eonet.ne.jp

MoPI通信編集責任者 斉藤 生々

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